2014.06.05
顧客体験の価値を上げるには、従業員体験の質向上も必要なんじゃないの?
目次
顧客との接点を全て管理するのは困難
「カスタマ・エクスペリエンス」という言葉を最初に聞いたのはいつごろだろうか。直訳すると「顧客体験価値」。
商品やサービス自体のほか、広告や店舗、アフターサービスなど企業と顧客とのすべての接点において、顧客が体験する価値のことを指す。
時代がいわゆる“Web1.0”から“Web2.0”へ、ソーシャルへと変遷するにつれ、顧客と企業の接点は増加の一途を辿るとともに、コミュニケーションの流れが複雑化した。
商品やサービスそのもの、雑誌や新聞、テレビ等メディア広告、店舗等の販売現場、電話やメール等でのサポート、販促イベントなどの接点以外にも、公認ソーシャルメディア、社員自身が何気なくソーシャルに書き込んだ言葉、企業との接点を通じた経験を顧客や生活者がソーシャルに書き込んだクチコミなど、企業側が管理しきれないコミュニケーションが沢山生じている。
企業はカスタマ・エクスペリエンスを向上するためにさまざまな社員教育を行い、それぞれの部門で改善活動に励み、商品・サービスの品質向上に取り組んでいる。しかし実際にカスタマ・エクスペリエンスを担っているのは社員だけではない。例えば店舗を構える企業であれば、社員のほかに、契約社員、パート・アルバイト、またテナントが入っていれば、テナントで雇用しているパート・アルバイトもいるだろう。
出典:ペルソナ&カスタマ・エクスペリエンス学会
これらの従業員に対し、企業が直接研修を行ったり、社内報などのメディアを通じてコミュニケーションを行うことは困難だ。彼らと企業とのコミュニケーションの大部分は現場のマネジメントが占めている。では、こういった状況でどうすればカスタマ・エクスペリエンスの向上を実現できるのだろうか。
社員にとっての当たり前が、顧客に不満を感じさせる
私個人が体験し、感じたことを一例として挙げる。
自宅から車で15分程度のところに大型のスーパーマーケットがあり、生活用品や食料品を購入するために、週に1回程度足を運んでいた。一昨年の今頃だったと思う。遠く離れて生活する父に、プレゼントを購入して送ろうと考えた。腰が痛いと言っていた父の姿を思い出し、いつも行くその店にある生活雑貨のテナントでマッサージ機能のついたクッションを買い、包装してもらった。せっかくなら早く送りたかったので、テナントの店員に配送サービスがあるかと聞くと、1階にあるサービスカウンターで受け付けているという。そのまま1階のサービスカウンターに行き、送付状を書き終えた。そこで言われたことが未だに引っかかっている。
「これは、テナントの商品なので、こちらでは受け付けできません。地下にある窓口へお越しください。お書きいただいた送付状は使えません」
私は、このスーパーマーケットの顧客であり、テナントで買ったのか、直営店で買ったのかは、私にはどちらでもいいことなのだが。なぜできないのかを聞いても、「できない」の一点張りだ。しぶしぶ、地下の窓口に行き、もう一度送付状を書いた。しかも、直営店で買った人の1.5倍の配送料を支払うことになった。
その時、私の頭の中に、3つの「なぜ?」が浮かんだ。
1つ目は、「なぜテナントの店員は、1階のサービスセンターを案内したのだろうか?」。
そこに行かなければ、私はこのような応対を受けることはなかったと思う。
2つ目は、「なぜテナントと直営店で配送方法が異なるのだろうか?」。
企業側の仕組みは想像できるが、顧客としては理解したくない。
3つ目は、「なぜサービスセンターの店員は、自分たちの都合による不便さを詫び、地下の窓口に案内しなかったのだろうか?」。
顧客が不便を感じているのであれば、最大限できることをするのが、サービス業のなすべきことだろう。
最近、その大型スーパーより少しだけ自宅の近くに、対応がとてもよい小さなスーパーができた。
3つの「なぜ?」をいつまでも頭から払拭できなかった私は、それ以来その大型スーパーからは足が遠のいてしまった。
顧客にとっての「なぜ?」を生まないために
例に挙げた大型スーパーの従業員は、自分の仕事や自分の会社が提供しているサービスに満足しているのだろうか。
もしかすると、あのサービスカウンターの店員も、その不便さを疑問に思い、上司に相談したかもしれない。上司が聞く耳を持たなかったかもしれないし、上司とともに改善のために努力したがどうにもこうにも変えられなかったのかもしれない。過去に努力していた社員も、努力が報われずに、あきらめてしまったのかもしれない。
もしかすると、あのテナントの店員は、働きがいが感じられないのかもしれない。改善などの取り組みを行っても、認められた経験がないのかもしれない。それならば、いわれるまま、ただ時間を過ごして時給を貰えばいいと思っているのかもしれない。
これらは私の妄想にすぎないが、そこで働く人たちが働きがいや誇りを感じていなければ、顧客へのサービス品質が低下することも考えられる。
さらに、以前ニュースでよく取り上げられていたようなソーシャルへの写真投稿によるいわゆる「バイトテロ」が起きたり、職場を特定できるような形で仕事への不満を書き込むなどのことが起きるかもしれない。
また、私のような経験をした顧客がネガティブな書き込みを拡散し、企業ブランドを大きく毀損するようなことが起きるかもしれない。
もちろん、人によって違いはあると思うが、改善の第一歩は、やはりコミュニケーションなのではないだろうか。あるメーカーで、風通しのよい組織にするために、各部署の部署長にコミュニケーションの量と質を改善するように命じた。部署長だって急に変わることは難しい。しかし、いつもより少し多く声をかける、いつもより少し多く部下の仕事を褒める、いつもより少し多く部下の話を聞く。それだけで、そのメーカーの1年後の社員意識調査のスコアは大きく改善した。
従業員の良質な経験がカスタマ・エクスペリエンスを向上する
あの大型スーパーの社員(しかもマネジャー)がこの記事を見ているとは思えないが、もしこのコラムに興味を持っていただけたようなら、ぜひみなさんの職場でも先に述べたメーカーのような活動を実践してみてほしい。従業員が職場での体験に満足し、仕事に魅力を感じていれば、顧客に提供する価値は向上するはずだ。(よっぽど自分のことしか考えられない人は別として)
出勤したとき、気持ちのよいあいさつが交わせた
ミスをしたとき、同僚に励まされ、サポートしてもらえた
ちょっとした改善案を思いつき、アイデアを伝えたら褒められた
そのアイデアが取り入れられた
自分が普段から心がけていた行動を認められ、周囲が真似を始めた
会社の方針と自分が成すべきことをわかりやすく説明され、共感した
上司や同僚が言っていることと、会社のメッセージに一貫性があってわかりやすい
会社の広告を見て、誇らしく思った
自分が働く会社をいい会社だといっている声を聞いた
など、従業員を取り巻く接点で良質な体験ができれば、従業員の会社に対する誇りや働き甲斐は増すのではないか。
いきなり、全てを最適化しようとするのは難しい。
千里の道も一歩から。進め方もさまざま。
小さな歩みでもかまわないので、より高い良質なカスタマ・エクスペリエンスを生むためにも、従業員経験価値=Employee Experience の向上をぜひ実践してもらいたいと、切に思う。
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