2021.10.20
失敗しないオンライン研修の特徴と成功に向けた5つのステップを押さえよう
目次
2020年から続く新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、リモートワークへの対応が急ピッチで進められてきました。その結果、多くの企業で出社する回数が激減しています。なかには、入社式だけでなく社員研修までをもオンライン化する企業が多く見受けられるようになりました。
このような予測不可能な外部的要因によって組織の活動形態を大きく変化せざるを得ない今、あなたの会社では適切にインターナルコミュニケーションや組織づくりを実施できていると言えるでしょうか?
私たちソフィアは、組織の風土や行動を変えていく取り組みを「企画設計〜実行継続」まで支援している組織改革の専門会社です。単にノウハウやフレームを提案・伝授するのではなく、「クライアント企業内で実施するワークショップなどの対話を通して、組織自身に新たな気づきを促し、効果を生み出す取り組みにつなげる」というスタイルを得意としています。
この記事では、需要が急上している「オンライン研修」を実施するための重要なポイントと、成功に向けた5つのステップについて、さまざまな企業のオンライン研修をお手伝いしてきた私たちの実践を踏まえてご紹介します。
オンライン研修のメリット・デメリットや、失敗を回避するために意識しておくべきこと、ソフィアが支援した実際の事例も紹介していますので、ぜひ効果のあるオンライン研修の実施にお役立てください。
押さえておくべき「オンライン研修」の基礎知識
日本の企業研修は、戦後の復興期から高度成長の時代に至る1950~1970年頃から盛んに行われてきました。その中心になったのは、従業員の職能・職階に合わせた技能や知識を身に着けさせる体系的な研修プログラムです。これらは日常の業務のなかで必要な知識を継承するOJT(On the Job Training:職場内教育)と区別する意味で、Off-JT(Off the Job Training)と呼ばれました。やがて時代の変化と共に企業が求める人材の質も変容し、それに合わせて教育研修のカリキュラムも多様化していきます。
研修の形式も講師による座学中心の受動的なものだけでなく、参加者自身の主体性に重きをおいたアクティブラーニングが取り入れられる機会が増えてきています。と同時に近年需要が高まっているのが新しい通信技術を活用したオンライン研修です。
2種類のオンライン研修
オンライン研修には、ストリーミング配信によりリアルタイムで実施するタイプと、あらかじめ録画した内容をオンデマンド方式で視聴するタイプの2種類があります。
リアルタイム開催
「ストリーミング配信されるライブ講義」を複数の受講者がリアルタイムで同時に受講するオンライン研修は、実際に集まって行う集合研修に似ていることから「オンライン集合研修」とも呼ばれています。
講師や参加者同士の双方向コミュニケーションができるため、工夫次第で音声やチャット機能などを使った質疑応答や議論が可能です。
録画開催
「録画された講義を視聴する」オンライン研修は、アーカイブのなかから目的に合わせて選んだり、いつでも何度でも再生できたりする点が大きな特徴です。
リアルタイムの研修も録画で残しておけば後日再び参照することができるので、学習内容のより確実な理解につながるでしょう。
また、受講者側の都合で独習できるため、リアルタイム開催の研修と区別して「eラーニング」と呼ぶこともあります。
オンライン研修の需要と普及は急速に拡大している
繰り返しにはなりますが、オンライン研修の需要は2020年から続くコロナ禍の影響を受けて急速に拡大しています。
eラーニング戦略研究所が2020年9月に全国のオンライン研修担当者を対象に実施した調査によると、72.3%が「従来の集合研修が実施できなくなった」と回答しており、業種や規模にかかわらず6割以上の企業でオンライン研修が緊急導入されたことが分かりました。
また、矢野経済研究所が2021年4月に発表した調査結果によれば、日本の2020年度eラーニング*市場は前年度比で22.4%増加、2021年度はさらに増加傾向と予測され、3,126億円にのぼる成長が見込まれています。
これまでオンライン研修にあまり積極的でなかった中小企業が、コロナ禍を機に小規模のサービスを導入するようになったことや、技術の普及や需要拡大で導入価格が下がりオンライン研修の実施が以前に比べて容易になったことも、市場にとって追い風になったと考えられます。
そして「オンライン研修の展望」という観点でお話しすると、既にオンライン研修を活用していて、その効果を実感している企業の90%が「今後もオンライン研修への切り替えを継続したい」と考えていることがわかっており(パーソル総合研究所調査より)、この傾向は当面止まることはないでしょう。
今後は、
- LMS(Learning Management System:学習管理システム)
- コーチング
- AI技術
などの技術や考え方を活用することで、より受講者の学習レベルや進捗段階に寄り添ったものの一つとしてオンライン研修が充実していくとの見方も強まっています。
*この調査における「eラーニング」は、リアルタイム開催も含む
オンライン研修を実施する目的と課題
オンライン研修を成功させるためにはまず、「何を目的とし、どのような課題を解決するために行うのか」を明確にする必要があります。
この点は通常の集合研修と変わりません。研修の目的と課題が明らかになっていないと、せっかく研修プログラムを組んで参加者を募ったのに「なるほど、勉強になりました」と、その場限りの知的満足で完結してしまい、本来の業務に反映されない結果に終わってしまいます。
そこでオンライン研修を企画する部署は、マーケティング部門が消費者像を分析するのと同じように、
- 対象者
- 達成したい目標
- 実施のタイミング
- 教材の設計
などの要素をあらかじめ想定し、プログラムに反映させる必要があります。同時に、以前に行われていた集合研修の効を事後の追跡調査によって測定、検証することも重要です。
研修終了後の参加者アンケートで良好な反応が得られたにもかかわらず、そこでの学習内容が実際の業務になかなか活かされない、という状況もよく耳にします。研修を企画し、無事終えることで満足せず、
【事前準備】→【実施管理】→【事後フォロー】→【次回への課題化】
というサイクルで考えなくてはなりません。ポイントは、後述する「ラーニングエクスペリエンス」の視点です。
ラーニングエクスペリエンスデザイン(LXD)とは?
上記でご説明したように、研修の成功には受講者にとっての効果的な学習体験を想像し、設計する「ラーニングエクスペリエンスデザイン(またはラーナーエクスペリエンスデザイン、以下LXD)」が成功のカギを握ります。要素を噛み砕いて、詳しくみていきましょう。
顧客が商品・サービスの購入を通じて経験するさまざまな段階での感情や評価の体験を、マーケティング用語で「カスタマー・エクスペリエンス(以下CX)」と呼びます。たとえば、カフェにおける顧客のCXは、購入したドリンクの味や香りといった商品単独の基本的価値だけで決まるものではありません。
- 店内の装飾や調度
- 店員の応対
- 混雑状況
- 居心地の良さ
- 電話で問い合わせた際の対応
など、そこで体験するあらゆる事象が顧客にとってのカフェの価値を決定づける要因となります。
同じように研修や教育学習の場面においても、受講者の視点で学習体験を想像し、想定するLXDが重要になるのです。LXDは各場面の体験における細かなインターフェイスの連続で構成されるため、集合研修には集合型の、オンラインならオンラインに即したそれぞれのLXDがあります。
- 「目的と課題」を達成するための具体的なプログラムの設計
- 最も望ましい形で学習してもらうための入念な準備
- 人事・総務・教育を担当する部署と受講者の所属部署のスムーズな連携
というように、LDXでは研修そのもののデザインだけではなく、研修前や研修終了後に参加者が体験することが範疇に入ります。
つまり、受講者とその属する組織が研修の成果を十分享受できる環境を整えるまでのすべての流れがLXDを形成する要素になるというわけです。
オンライン研修のメリット・デメリット
需要が伸びているオンライン研修ですが、従来の集合研修と比較した場合にメリットとデメリットがあります。先述のLXDをうまく活用して最大の効果を得るためには、以下の内容をよく認識したうえで実施するようにしましょう。
オンライン研修のメリットと特徴
オンライン研修には、その特性に由来する、
- ツールの特性を生かしたメリット
- コスト上のメリット
- 業務削減のメリット
などが生じます。1つひとつ具体的にみていきましょう。
ツールの特性を生かしたメリット:現地で行う集合開催に比べて気軽に受講できる
テレワーク・チャット機能・リアクション機能など、オンラインツールのさまざまな特性や機能を生かすことで、運営する側も受講者も、多くのメリットが得られます。
1. テレワーク
実際の会場に集合して行う研修では、決まった時間で進行しなければならないという制約があります。オンラインの場合は、通信環境さえ整っていればテレワークにより場所を選ばず受講でき、移動に要する時間もほぼありません。録画配信型であれば、開始時間を受講者都合で決められたり、自分で学習速度を操作して細切れでも視聴できたりするので、空き時間を利用して気軽に参加が可能です。
2. チャット機能
動画配信に付随するチャット機能を活用することで、双方向のコミュニケーションが実現できます。ライブ配信の場合でも、進行を妨げることなく講師が質問を受け取れたり、受講者同士で情報をやり取りができたりします。
3. リアクション機能
Zoom会議のように、全参加者をパソコンなどデバイス1画面で確認することができるため、教室で行った場合に比べ表情や反応が把握しやすい面もあります。理解度の確認や詳細な説明が必要かどうかなど、1人ひとりのリアクションを見てニーズをキャッチできるので、きめ細やかな対応が可能です。
ただし、こうした機能を十分活かすためには受講者に通信環境やデバイスを用意してもらい、事前にある程度の使い方を理解してもらう必要があります。不慣れな参加者の場合は多少負担に感じることもあるので、あらかじめサポートできる態勢を整えておきましょう。
詳しくは「5章オンライン研修を実施する際には要注意!よくある失敗と解決策とは?」で詳述します。
コスト上のメリット:時間的・金銭的コストを削減できる
物理的な集合研修では、プロジェクターやホワイトボードなど必要なアイテムを揃え、参加者全員が十分に活動できる会場を確保しなくてはなりません。自社で場所が用意できない場合は会場をレンタルする費用がかかり、数日にわたる宿泊研修などの場合はさらに時間的・金銭的なコストがかさむでしょう。
オンライン開催であれば、こうした場所や日程の調整などにかかるコストを最小限に縮小することができます。
業務削減のメリット:開催側の業務工数を削減できる
業務削減によるメリットのポイントは、録画機能・画面共有機能・アンケート機能・グループワーク機能にあります。
●録画機能
複数のグループを対象に同じ内容の講義を行う場合、講師は2度、3度と繰り返さなくてはなりません。オンライン開催であれば録画機能を使用することで、1度実施した講義を繰り返し配信することができます。また、録画は時間の流れを視聴者側で調整できることも特徴です。再生速度を調整してゆっくり聴いたり、巻き戻して再度視聴できたりするなど、1回きりで流れていってしまう講義よりも理解を深めることができるでしょう。
●画面共有機能
画面共有機能を使用すると、その都度資料を人数分印刷して配布する手間が省けます。画面上で講義資料を示したり、PDFやエクセルなどのファイルを画面で共有したりできるため、1度用意してしまえば同じデータを使い回すことが可能です。また、紙の資料やレジュメと違って、講師側の画面を共有しながら講義が進むため、受講生側が参照すべき部分を見失うこともありません。
●アンケート機能
アンケート機能を用いれば、参加者に対してリアルタイムでアンケートを実施することができます。デジタルだからこそ素早く集計でき、配って・回収して・仕分けするといった手間をかけずにその場で参加者の意向が把握できるというのが特徴です。
アンケートから得られる結果をある程度予測しておけば、その日の参加者に適した研修プランを事前に用意して柔軟に展開することも可能になり、研修の質を向上させることができるでしょう。
●グループワーク機能(ブレイクアウトルーム/セッション)
リアルな集合研修でグループ(小集団のセッション)分けを行う場合、人数の調整や名簿確認、ちゃんと揃っているかどうかの点呼といった作業が必要です。オンライン開催の場合は、グループ数を決めるとランダムでメンバーを振り分ける機能も備えているため、上記のような手間を省力化できます。
オンライン研修のデメリット
一方、オンライン研修のデメリットとしては、
- 参加者管理上のデメリット
- 内容上のデメリット
- インターフェイス上のデメリット
が上げられます。具体的に述べていきましょう。
参加者管理上のデメリット:参加者の集中力の維持が難しい
参加者が一堂に会する集合研修では、実際に講師を前にすることで受講者側にある種の「緊張感」が生じます。この緊張感は、参加意欲を低減させないことに寄与していると言えるでしょう。しかし、周りに同じ受講者がいないテレワーク環境のもとでは、この緊張感が発生しにくくなり、参加意欲の維持・持続が集合研修に比べて困難になりがちです。特に「動画を視聴してください」という録画型は注意が散漫になりやすく、画面への集中力が途切れやすくなります。
集合研修では周囲を見渡せば他の参加者の存在が一目でわかるので、学習意欲の面で同調したり、競争意識が生まれたりしやすいのです。そのため、研修において参加人数をある程度確保し、「みんなで学ぶ」という環境を意識することは研修企画段階において重要な要素と言えるでしょう。
内容上のデメリット:実践形式のコンテンツは向いていない
たとえば、営業や接客のノウハウを体験しながら学ぶロールプレイングや、具体的な技術をエキスパートから直接伝授してもらうような実践型学習は、オンライン研修になじみにくいというデメリットがあります。
講師が注意深く受講者の一挙手一投足を見守り、指導することで経験値をあげるタイプの研修となると、リアルで行う集合研修に軍配が上がるでしょう。
インターフェイス上のデメリット:参加者同士のコミュニケーションを生むには工夫が必要
同じ場所に集まって直接顔を合わせる集合研修では、異なる地域に配属された同期と久しぶりに会ったり、普段言葉を交わさない他部署の参加者と話す機会が生まれたりするなど、「コミュニケーションのきっかけ」が自然に発生します。しかし、オンライン研修ではパソコンやタブレットなどの画面越しでしかコミュニケーションできません。Webカメラを使って画面に参加者の顔をリアルタイムで映し出したとしても、実際に本人を目の前にした場合とでは情報量や話しやすさが違ってきます。
参加者同士のコミュニケーションを促進し、リアルの集合研修と同様の効果をもたらすためには、前述したブレイクアウトルームなどのグループセッションを多用し、チャットやホワイトボードへの書き込みを促すなど、ツールに付随する機能を参加者が最大限に活用できるような工夫が必要です。
また、TeamsやYammerのようなデジタル・コミュニケーションツールの活用も合わせて行うと効果的でしょう。
上記のデメリットを踏まえ研修運営側が意識して取り組むべきことは、事前・事後のプロセスも含めて参加者の有意義な学習体験をサポートする相談窓口を用意し、スムーズな受講を可能にする「LXDの向上」です。相談窓口は単なる事務局ではなく、コーチングのスキルを備えて参加者に伴走できるスタッフがいることが理想的です。伴走者の存在は、オンライン研修の成果を大きく左右する要素の1つです。
詳しくはこちらの記事をご参照ください。
ここまで、オンライン研修のメリット・デメリットをお伝えしてきました。オンライン研修に限らず、従来の集合研修もうまく運営するためには、何度か経験することで蓄積されるノウハウが重要なポイントでした。オンライン研修も同様に、実施してみてはじめて直面する課題や、意識しておくべき事柄が実感できます。未経験で初めてオンライン研修に臨む際は、リアルの集合研修より手軽で簡単だろうという温度感で安易に取り組まないよう注意しましょう。
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研修を成功させるための秘訣は?重要な5つのステップをご紹介!
オンライン研修のメリットを最大化し、受講者のLXを高めて成功へ導くには、
【事前準備】→【実施管理】→【事後フォロー】→【次回への課題化】というサイクルに沿った次の5つのステップが重要です。
- 研修の目的と現状の課題を整理する
- 時系列で学習体験をデザインする
- 2を実現するための運営体制を構築し、タスクとスケジュールを描く
- 研修を実施する(研修前後のフォロー含む)
- 効果測定と改善を繰り返し実施する
ステップ1:研修の目的と現状の課題を整理する
LXDを説明した章で既述したように、最初のステップとしてまず「この研修は何を目的とし、どういう成果を求めるのか」という目的と課題の明確化を行いましょう。
- 受講の前後で参加者の考え方や行動がどのように変わって欲しいのか
- その結果どのような成果を期待するのか
といった要素を比較測定が可能になるようにしておかなくてはなりません。そのためには、事前にアンケートやヒアリングを行って現在の状況を把握することも必要です。現状と期待値のギャップがはっきりすれば、その変化の過程や受講者の感情・意識の変容プロセスをデザインすることができます。
ステップ2:時系列で学習体験をデザインする
LXDの大まかなフレームがつかめたら、より詳細な学習体験のデザイン段階に進みます。意識が変わっていく段階をマイルストーンとして時系列で想定し、研修の中身をプログラムしていきましょう。
ステップ1で把握した「受講者の現在位置」と「受講者に期待するゴール」を両端に置き、どのような段階を経て意識や感情、行動に変化を生じさせていくかプランニングしていきます。
ここでは単なる知識吸収にとどまらないよう、
- 注意関心をひく魅力的なコンテンツ
- 興味をかきたてる題材
- 新しい知識や事例の提示
- 積極的に関与したくなるテーマ
- 強く記憶に残る表現
- 自発的なディスカッション支援
- 実際の行動へとつながるノウハウ
などを時系列で組み立て、具体的に設計していくことがポイントです。受講者の変化をうむためには「どのようなスキルが必要か」「どのような伝え方が有効か」といった研修担当者の行動についても具体的に検討していきましょう。
ステップ3:ステップ2を実現するための運営体制を構築し、タスクとスケジュールを描く
ステップ2でデザインしたLXDの全体像を具体化するためには、研修の講師や伴走スタッフと共に、
- 題材の選定
- 教習の方法
- 用いるツール・アプリケーションの準備・開発
- マイルストーン達成に必要なスキル
- 達成度を測る評価基準
- 進行スケジュール
などを詰めていきます。
LXDでは、受講者にとってストレスのないスムーズな学習体験の提供も重要な要素の1つです。次章でオンライン研修によく見られる失敗事例とその解決策をご紹介しますので、効果的な運営体制構築にお役立てください。
ステップ4:研修を実施する(研修前後のフォロー含む)
プログラムの詳細が決まったら、次のステップはいよいよ研修の実施です。
オンライン研修の内容やスケジュール、受講方法を、対象者とその所属部署や上長にアナウンスします。受講にあたって必要となるツールやアプリケーションは、事前にアクセスの仕方や使用方法を説明しておかなくてはなりません。問い合わせに答える相談窓口も事前に明確化しておきましょう。また、コンテンツが正しく再生されるか、受講者側と同じ環境でリハーサルを行うことも必要です。
研修の実施日には、何か不具合が起きていないか、参加者が問題なく受講できているかなどをモニタリングしながら進めます。
研修の終了後は、プログラムの内容に従ってアンケートなどを行い、アフターケアに努めましょう。復習の希望や質問などに対しても適切に対応して、望ましいLXDの実現に配慮してください。
ステップ5:効果測定と改善を繰り返し実施する
最後のステップは、次開催につながる最初のステップでもあります。
実施したオンライン研修が実際の業務にどのように反映されたか、追跡調査を行って効果を測定しましょう。研修終了直後には評判が良かった場合でも、時間が経つと忘れてしまい仕事に活かされないというケースは、オンラインか集合研修かにかかわらずよくあることです。
また、研修に関わるスタッフ同士でも状況の共有、振り返りを行っていくことも大切です。オンラインで研修を行う際は一人ですべてのことを把握することが難しいため、各々が見たこと、感じたことを共有し合うことで、研修の中で起きていたことを立体的にとらえることができるようになります。
LXDの構築には「完成形」がありません。うまくいった事例でも、常にその効果が持続するとは限らないのです。効果測定と改善を繰り返し、次回の研修がより参加者にとって、そして自社にとっても有益なものとなるよう、必ずPDCAのサイクルを稼働させて効果の高い研修プログラムを追求していきましょう。
オンライン研修を実施する際には要注意!よくある失敗と解決策とは?
ここまでの章ではオンライン研修実施に向けての極意をお伝えしてきました。この章では実際にオンライン研修を実施したときにどのような問題が生じるか、なぜ求める効果が実感できないのか、といった失敗談とその解決策をご提示します。
事前に起こりうる課題を把握・対策することで、オンライン研修成功の第一歩を踏み出しましょう。
オンライン研修でよくある6つの失敗
私たちがこれまで得た知見の中から、オンライン研修を実施するにあたって陥りやすい失敗のパターンを6つ選出しました。
- そもそも研修に参加しやすい環境が整っていない
- 参加しても研修に必要な操作ができない
- 講師側の音声やビデオ、画面共有が正常に機能しない
- 双方向のコミュニケーションが構築できない
- ブレイクアウトセッションが成り立たない
- チャットで発言や質問を受け付けても誰も書き込まない
以下、解説します。
1. そもそも研修に参加しやすい環境が整っていない
集合研修より縛りが少なく、受講希望者が参加しやすい環境があるとはいえ、研修を行っている間は時間的な拘束が伴います。所属部署によっては、通常の業務を優先するあまり、研修に抵抗感を示す場合もあるでしょう。過去に行われた研修の成果が可視化されていない組織ほど、その傾向が強まります。
研修にうまく参加できない(しにくい)ことから参加者が揃わない、増えないといった課題が生じないように組織的な理解や取り組みが必要です。
2. 参加しても研修に必要な操作ができない
オンライン研修やデジタルツールになじみがない組織では、その使いこなしに個人差が生じます。どのようなプラットフォームを用いるにしろ、基本的な使い方に関してある程度の習熟がないと操作ができず、つまずくことになるでしょう。
ツールやデジタルそのものに対する知識不足などによって進行が阻害されると、スケジュールが後ろ倒しになってしまうといった事態も予測できます。
3. 講師側の音声やビデオ、画面共有が正常に機能しない場合がある
通信技術を使って受講者側の各端末で動画や音声を再生するオンライン研修では、通信インフラや端末側のOSバージョンといった要因から、正常に機能しない場合があります。スムーズな受講ができるよう、あらかじめ受信側のレギュレーションを揃えておき、テストを行って正しく動作するかどうか確認しておきましょう。
なかには講義の途中でファイルを共有したり、別のアプリケーションを立ち上げたりすることによって大きな容量のデータを使用することもあります。リアルな関係構築の場とは違い画面越しでのコミュニケーションになるため、画面の向こう側の受講者に正常に届いているか、問題なく対応できているか、適時確認を行いながら進行するといった運営側の配慮が不可欠です。
4. 双方向のコミュニケーションが構築できない
意外と見落としがちなトラブルに、ケアレスミスから発生するものがあります。ディスカッションの際に音声や映像に問題があり、再起動や接続チェックを行ったが、実は端末側でマイクやビデオがONになっていなかった、というケースなどです。
また、発信側と受信側だけではなく、受講者間でも、研修に対する温度差が原因でコミュニケーションの質と量に格差が生じることも少なくありません。特にオンライン研修では、集合研修に比べて講師と受講生、受講生同士といった双方向のやりとりがしにくい傾向があり、盛り上がりや研修そのものの充実度に大きく作用してきます。コミュニケーションを生む工夫が必要になってくるため、双方向の参加意識を高めるための手助けや工夫については、同じ会場で顔を合わせて行う場合よりも強く求められると言えるでしょう。
5. ブレイクアウトセッションが成り立たない
双方向コミュニケーションのバリエーションとして、「ブレイクアウトセッション」という機能を使って受講者をいくつかのグループに分ける方法があります。ブレイクアウトセッションを活用すると、少人数のディスカッションやアウトプットの作成が行えるようになります。
ブレイクアウトセッションでは受講者は自動で振り分けられる場合と、希望するグループに参加する場合とがありますが、ここでのグループ分けがうまくできないとワーク自体が成立しません。またグループ分けができても、討議が進まず望ましい成果を出せなければ、セッションは不成功です。
そのため、運営側は状況に応じて各グループにファシリテーター(討議進行専門の案内役)を置き、ワークを手助けできるように備えが必要です。
6. チャットで発言や質問を受け付けても誰も書き込まない
Zoom会議などの遠隔での共同作業フレームでは、チャットやファイル共有機能など、進行を補助するさまざまなツールが付随しており、講義と並行する形でうまく使うと、流れを妨げずに質問・回答ができるメリットがあることをお伝えしました。しかし、その存在を知っていても誰も書き込まない、書いても読まれず共有されない、という状況ではそのメリットも意味を成しません。
研修の成否は参加者の熱量にあります。4や5と同様に盛り上がりや研修そのものの充実度が変わってくるため、意見を言いたくなるようなファシリテーターからの呼びかけや、事前にお知らせとして「質問することで参加者の学びが深まるので、いつでもチャット欄でコメントください」などを伝えておくことが重要です。
また、受講者の発言や反応は、そのまま今回の研修のフィードバックになるため、次回以降に活用できる非常に重要な資産です。何気ない発言やアンケートといった「受講生の生の声」の積極的な活用を心がけましょう。
これらの失敗の回避・解決策
ソフィアではこれまで、クライアント企業のオンライン研修に関する数多くの取り組みを実施して参りました。なかには、新入社員の配属後のスキルや意欲のばらつきの改善も見据えたオンライン研修を設計し、課題解決に取り組んだ実績もございます。
ここからは知見を集約したソフィア流の極意を交えて、オンライン研修の失敗を回避するための解決策を解説します。
受講者のシステムやデバイス、参加場所などをヒアリングする
研修の受講者をリストアップしたら、個々の参加者について、
- どこから、どの通信インフラを用いてアクセスするのか
- 受講に用いるデバイスとOSなどのシステム、アプリケーションのバージョンは基準を満たしているか
- マイクやカメラは必要なレベルで正常に作動するか
- 静かに落ち着いて参加が可能な環境かどうか、当日接続不能な場合の連絡方法は何か
などについてヒアリングを行い、最適な研修環境を整備したうえで開催していく必要があります。受講者の利用・参加環境を事前に把握したうえで、研修の設計を練っていきましょう。
必要な操作ができるようマニュアルを作成し、共有する
設計したLXDの流れに従い、研修シナリオの要所要所で必要なアクションに付随する操作を洗い出します。その操作がトラブルなく行えるよう、運営者用・受講者用に分けてマニュアルを用意しておくと良いでしょう。接続トラブルや操作補助など、事前に想定できる事態はできる限り網羅しておくことがポイントです。
停電や事故など予期しない事象が起こることも考えられます。入念な準備で非常時の迅速な対応を担保し、運営者の信頼性も高めていきましょう。
注意事項を事前にアナウンスし、オリエンテーションを実施する
オンライン研修の参加者には事前に研修の概要をアナウンスし、必要に応じてオリエンテーションを行いましょう。研修と同じシステムを使って遠隔でオリエンテーションを行う場合は、接続環境のテストを兼ねることもできます。アプリケーションの操作方法や接続の仕方など、不安要素が残る点についてはこの段階でクリアにしてもらうことが理想的です。
開催前に必ずリハーサルを行う
運営側は、実際にオンライン研修を行う数日前までには、必ず進行スケジュールに従ったリハーサルを行ってください。思わぬ見落としや不具合を、この段階で完全に排除してしまいましょう。必ずしも人数を揃える必要はなく、講師や受講者役も別の人間でかまいません。予定通りの進行が過不足なく実施できるかどうかを検証することがリハーサルの目的です。
事務局が研修実施中にテクニカルサポートを実施する
これだけ準備しても、当日になって受講者側で技術的な問題が発生することも考えられます。そうした事態も想定し、運営側は相談窓口(技術的なトラブルに対応できるスタッフ)を準備して、万全なサポートに備えましょう。
【事例紹介】ソフィアで実施したオンライン研修
この章では、これまで説明してきた内容を踏まえたうえでソフィアがお客様企業に提供した、オンライン研修の事例を解説します。
【事例1】学びの体験を重視した研修プログラムの再設計
株式会社中外臨床研究センター様の事例です。中外製薬グループの一員として高度専門業務を担う株式会社中外臨床研究センターでは、世の中がコロナ禍の渦中にあった2020年8月、オンラインコミュニケーションを学ぶ体験型オンライン研修をソフィアとともに企画し、実施しました。
当時、オンライン会議が大幅に増加するなかで、どのようにオンラインでのコミュニケーションをとることが適切か手探りの状態となっており、経営層からも社員からも「何とかしたい」という声が上がっていました。ソフィアとの話し合いのなかで、オンラインによるコミュニケーションの機会が増えたことで、画面の向こう側にいる相手の反応が捉えにくく、発言や討議を進めるハードルが無意識のうちに高くなっているのではないかという仮説を立てました。そこで、参加をよびかけるレターの文面に工夫を凝らす取り組みを実施した結果、全社員の約1/3が参加する大規模なオンライン研修を実施することができました。
また研修では、即興で割り当てた役柄を演じながら「これは言わない方が良いのではないか」「これを言ったら変に思われないか」という心理的な障壁を徐々に取り払っていきながら、「インプロ(即興演劇)」の手法を取り入れた体験参加型の研修を進めました。その結果、「みんなが話しやすいように私は発言を控える」という上司に対しては「黙っていられるとかえって話しづらい」というフィードバックがなされるなど、積極的なコミュニケーションが発生していき、楽しく学ぶ場になっていきました。
同社ではこれまでは感じられなかったような発言や討議を進める上での無意識のハードルがどんどん下がっていく様子が、研修が進行するにつれてより強く実感できたといいます。
今後は社内のみならず、医療関係者など重要なステークホルダーとのコミュニケーションも学び、活かしていきたい、との声もあがっています。
詳しくは「眠っている課題解決のスイッチを押す 株式会社中外臨床研究センター 体感型オンライン研修」をご参照ください。
【事例2】新入社員研修のオンライン化でエンゲージメントを向上
社員数5,000名以上を抱えるある大企業の事例です。こちらも、コロナ禍の影響を受け新卒社員向けの集合研修ができなくなったことをきっかけに、これまでの研修のあり方を見直し、「配属後にばらつきがみられるスキルや意欲をどのように改善していくか」をテーマとして再設計しました。
【事前準備】→【実施管理】→【事後フォロー】→【次回への課題化】というサイクルに沿って、求められる情報提供とインタラクション、受講者同士や社員とのコミュニケーション、研修後に期待するアウトプットイメージとその共有方法など、学んだことが実際の現場で活かされるようなLXDを実現しています。これらは、「LMS365」というeラーニングシステムの統合プラットフォームで作成されており、これにより教材の作成や受講者とのコミュニケーション、進捗管理、既存アプリケーションとの連動を容易に実現できました。
こちらの内容は「新入社員研修のオンライン化によってエンゲージメントを高める」にもまとめております。ぜひご参照ください。
まとめ
コロナ禍の影響もあり、オンライン研修に対する需要と期待は今後もさらに高まっていくと予想されます。オンライン研修の実施にあたっては、受講者と主催企業の双方にとって有益で効果のあるものにするために、まず「目的と課題」を明確にすることが大切です。そして、それらを「学習体験」という観点で設計するLXD=ラーニングエクスペリエンスの手法で実際のプログラムに落とし込みます。
重要なのは、LXDの考えを基にプログラムを組むと同時に、それを確実に運営するために注意深く準備すること。運営の事務局は事前に受講者や関係部署とコミュニケーションを密にとり、必要な情報を集めまたリリースし、講師や受講をサポートする伴走スタッフとも入念に打ち合わせを行いましょう。
また、遠隔教育では従来型の集合研修とは異なるツールやシステムを使用するなど、学習者に対する事務局からの働きかけやそれに伴う準備等がより一層重要になります。集合研修以上にツールの使い方、使う環境、本人の力量が学習に影響するため、その点を理解・考慮したうえで研修の設計・運営を行いましょう。
前述した「オンライン研修のメリット・デメリット」や「研修を成功させるための5つのステップ」を理解し、失敗を回避するための万全の準備とアフターケアを心がけてください。あなたの会社、部署で行うオンライン研修の成功に向けて、この記事が参考になれば幸いです。
関連事例
よくある質問
- オンライン研修を成功させるポイントは何ですか?
1:研修の目的と現状の課題を整理する
2:時系列で学習体験をデザインする
3:ステップ2を実現するための運営体制を構築し、タスクとスケジュールを描く
4:研修を実施する(研修前後のフォロー含む)
5:効果測定と改善を繰り返し実施する
株式会社ソフィア
ラーニングデザイナー
古川 貴啓
組織の風土、行動を変えていく取り組みを企画設計から、実行継続まで支援しています。ワークショップなどの対話を通して新たな気づきを組織に生みだし、新たな取り組みを始めるための支援を得意としています。
株式会社ソフィア
ラーニングデザイナー
古川 貴啓
組織の風土、行動を変えていく取り組みを企画設計から、実行継続まで支援しています。ワークショップなどの対話を通して新たな気づきを組織に生みだし、新たな取り組みを始めるための支援を得意としています。