「三井不動産株式会社:イノベーションマインド醸成に向けたポータルサイト構築・運用支援」
- 三井不動産株式会社
- ビジネスイノベーション推進部
- 中村太郎さん(写真右から2人目)
- 可児盛明さん(写真左から2人目)
- 株式会社 ソフィア
- 小林裕大(写真いちばん右)
インタビュー実施日:2022年1月11日
土地の開発、マンションやビルの建設のほか、大企業ならではのスケールを活かして「まちづくり」そのものの役割をも担っている三井不動産。三井不動産グループで新たな事業を創りだす人を応援し、外部から新しい知見を得るための情報発信の拠点「WARP PORTAL」の立ち上げ・運用支援を当社で行っています。イノベーションマインドを醸成するための取り組みをゼロから作り上げてきた三井不動産の中村太郎さん・可児盛明さんと、ソフィアのメンバーが今までの取り組みを振り返りました。
創造性やクリエイティビティを発揮しづらい企業風土があった
- 中村さん
- そもそもの始まりは、2018年に当社が過去最高益を達成したとき、「勢いのある今だからこそ新しいチャレンジをしよう」という社長の鶴の一声があったことでした。ところが当社はもともと財閥系の企業で営業はゴリゴリの体育会系。それに上意下達の社風があり、社員の創造性やクリエイティビティはある程度尊重されるものの、それらを伸び伸びと発揮できる環境とはお世辞にもいえない状況だったのです。そうしたなかで、いきなり「明日から新しいことをやれ」と言われても、プロ野球で活躍している選手が「明日からサッカーを始めて、レアル・マドリードを倒せ」と言われているようなものですよね。なので、本当にゼロから新しいことをスタートするための準備をする必要がありました。
社員のクリエイティビティを最大限発揮させるには、会社として、社員に自由を与え投資もするという姿勢を示さなければなりません。そこで、まずは今私たちがいる場所、社員が本社から離れて自由な発想を育むためのWARP STUDIOというスペースを作りました。一方、当時は社内に新規事業提案制度「MAG!C」を創設したばかりで、そこから生まれた新事業を立ち上げる時期だったのですが、「新規事業に携わる社員が社内で孤立してしまう」という問題に気付きました。というのも、制度自体がまだ全社的に周知されておらず、ほとんどの社員にとって新規事業は業務の優先事項に入っていなかったため、新しいことを始めようとする人が周囲の理解や協力を得にくい環境だったのです。そのため、こういったスペースを設けるだけではなく、新しいことに挑戦する人の味方を増やしたり、自分もやってみようという、イノベーションマインドを社内で醸成するために新規事業に関する情報を社内に発信する仕組みが必要だと思い至りました。
私はもともと社内の情報を発信するのは社員の役割だと思っていましたが、実際に社内SNSの運用などに携わったメンバーに話を聞いてみたところ、社内メディアの立ち上げ・運用にはかなりの時間と労力を要するということがわかりました。そこで、組織や人材に関わるコンサルティングと、メディア・コンテンツの両方を手掛けているソフィアさんに支援をお願いすることにしたのです。
- 佐々木
- 最初は、中村さん、可児さんと一緒に「社内にイノベーションマインドを醸成する上でいま何が足りてないのか、どんな課題があるのか、そのためにどんなことができるのか」を話し合いました。そこで、三井不動産の新規事業創出を担っているビジネス推進部(以下「ビジ推」)の皆さんと、コロナ禍の前にいくつかのワークショップを実施したんですよね。
- 小林
- その一つとして、「イノベーションマインドを発揮できている社員ってどんな人?」というテーマで社内メンバーを募ってワークショップを実施しました。その内容をグラフィックレコーディングとしてオフィスの壁に残しておくことで、イノベーションマインドに対する共通認識をもってもらうようにしています。
- 中村さん
- そもそも、取り組みを推進する私たちの中で、この取り組みを通じて育てたい社員像が一致していなかったら、社内に伝えるメッセージやコンテンツの質にも関わってきます。そこで「定量化できるイノベーション醸成のゴール設定も必要ですよね」とのご提案もソフィアさんからいただき、仮の測定値としてポータルサイトのユーザー数とページビュー数の推移を見ていこうと決めました。
新しいことにチャレンジする人を応援するためのポータルサイトを制作
- 中村さん
- 以前も、「MAG!C」の社内サイト上で、審査を通過した提案内容に関する情報発信はしていたのですが、社内の反応はそれほどありませんでした。ちょうどその頃、ベンチャー共創事業部・DX部もそれぞれのサイトで情報発信しており、それぞれのやりたいことが似ていたこともあり、3部門のコンテンツを統合して情報発信のための新しいポータルサイトを構築することにしました。それが現在の「WARP PORTAL」です。
WARP PORTALには「社内で新しいことにチャレンジする人を応援する気風を創る」というテーマがあります。そこで、社内の新規事業事例を紹介することはもちろんのこと、ボトムアップで何か世の中に商品やサービスを生み出している人たちの話を聞こうと、さまざまな企業にアポをとって取材に行きました。
- 佐々木
- 弊社のほうではコンテンツの企画や取材・記事作成、動画のディレクション・編集のほか、Googleアナリティクスを使ったKPIの管理や、アクセス向上に向けた各種施策の提案などもお手伝いしています。
- 中村さん
- こういうサイトって、カッコ良くはしたいものの、高飛車な感じになったら絶対ダメなんです。新規事業は既存事業あってのもので、既存事業に携わる社員の協力を得ないと実現できないので、「新規事業は進んでいて、既存事業は遅れている」というような構図にしてはならないと思っていました。さらに、まずは読者が興味を抱かない限り、何を発信しても響きません。ソフィアさんにはそのあたりのバランスもうまくとっていただいていて、ユーザー興味・関心に合った情報の提供ができていると思います。
- 佐々木
- 自社のこととはいえ、記事を通じて初めて新事業の内容を知る方も多いと思うので、できるだけわかりやすく伝えることを心掛けています。また、あえて新規事業を立ち上げにおいて試行錯誤した話や失敗談も赤裸々に語っていただき、カッコつけずにありのまま紹介することを意識しています。変に良く見せるより、そのほうが勇気づけられたり、親近感を持ったりする方もきっと多いですよね。
- 小林
- ビジ推の皆さんは仕事を進めるスピードが速いので、僕らも、たっぷり時間をかけて100点のコンテンツを出すのではなく、たとえ80点くらいでも早くリリースできるよう努力しています。そのスピード感を、僕らも実はけっこう楽しませてもらっているんですよ。
新規事業創出に対する社内の認知度が向上し、周囲の協力も得やすくなった
- 可児さん
- ビジ推では社内グループの中で新規事業の立ち上げに挑戦している方や外部の有識者の方をお招きしてウェビナーも開催しており、その様子もWARP PORTAL上で紹介しています。ウェビナー開催後の参加者アンケートで「登壇者の苦労や努力している姿が垣間見えてすごく嬉しい」という反応をいただいたり、一定数のユーザーがWARP PORTALへコンスタントにアクセスしている状況を見ると、新規事業に関心のある層の興味をある程度惹きつけることができていると感じます。
- 中村さん
- その甲斐あって最近は、新規事業プロジェクトについて他部署の人に協力を仰いだときに、「〇〇さんのプロジェクトなら記事で見たよ。面白そうだよね。何かできることある?」という反応を得られたり、ウェビナーに参加したり記事を見たりした人から「連携しましょう」という連絡が新規事業の担当者に直接入ることもあるんです。
- 可児さん
- ウェビナーや記事に登場したプロジェクト担当者に対して、応援コメントがチャットやメールで飛び交ったりすることもありますね。
ゆくゆくは、「WARP PORTALを見てチャレンジしてみました」「WARP PORTALがきっかけでこんな取り組みが生まれました」という事例が生まれてくるといいなと思います。そのためには、既存のコンテンツのクオリティをしっかり担保しつつも、新しい企画をどんどん発信し、記事の内容もより濃くしていきたいです。
真面目にふざけた提案をしてもらえるのが大きな価値
- 小林
- このプロジェクトは、時間が経つにつれてどんどんフェーズが変わってきています。最初はイノベーションマインドの定義、次はWARP PORTALの立ち上げ、現在はコンテンツのクオリティを高めていくフェーズになっています。今後はいかに品質を保ちながらスピーディーに運用していけるかを考えるフェーズになっていくと思います。
- 可児さん
- ウェビナーの内容やインタビュイーは僕らのほうで決めているのですが、そのほかの質問内容の設計や取材、撮影の段取りはほぼソフィアさんにお任せしています。ざっくりとしたリクエストに対してもこちらの意図を汲んでくださり、取材ではインタビュイーの本音を引き出せるような雰囲気づくりにも気を配っていただき、とてもありがたいと思っています。
- 中村さん
- 最近は、動物のキャラクターにイノベーション創出のポイントを語らせるコンテンツがソフィアさんの提案でいつのまにかできていました(笑)。そういうアイデアって相当脳をゆるめてないと出てこないと思うんですよ。私たちは日頃の忙しさでつい頭がカチカチになってしまうので、真面目にふざけた提案をしてくださることにすごく大きな価値を感じています。
- 可児さん
- 社内報など会社がオフィシャルに発信する情報と比べると、WARP PORTALはちょっとエッジが尖っていて、ぶっちゃけトークや「あるある」話ができる。そんな場にしていくための雰囲気づくりがこれから必要になってくると思います。今後も期待しています。
- 佐々木
- WARP PORTALでは、社員の皆さんの半歩先を行くような情報が常に必要だと思っています。そのために、私たちも常に新しい情報にアンテナを立てて世の中のトレンドをインプットしながら、より理解しやすく伝わりやすいコンテンツを作っていきたいと思います。
- 小林
- エッジが効きすぎて可児さんが思わず「それはちょっとやめてくれ」と言ってしまうくらいのぶっとんだ企画を創ろうと、今日お話を伺って思い立ったので、次回持ってきます(笑)。今後もWARP PORTALの運用をご支援しながら、イノベーションマインド醸成に向けたワークショップなど、幅広いご提案をしていきたいです。
(インタビュー、文:大澤美恵 写真:八幡宏)