「鳥居薬品株式会社:組織風土は自分たちが変える!社員参加による企業の価値観策定と実践」
- 鳥居薬品株式会社
- 常務執行役員 企画・支援グループリーダー 近藤 紳雅さん(左から2人目)
- 経営企画部長 有川 伸一郎さん(写真右端)
- 経営企画部 副部長 萩原 知仁さん(写真左端)
- 経営企画部 係長 三好 慶さん(写真中央)
インタビュー実施日:2022年12月8日
鳥居薬品株式会社は2019年、 事業環境の激変に直面して大規模な事業構造改革を実施しました。そこから3年間、同社が行ってきた 組織風土改革の取り組みを、ソフィアが支援してきました。苦楽を共にしたご担当者とともに、プロジェクトを振り返ります。
※写真撮影時のみマスクを外しています
事業環境の激変を乗り越えるために、社員一人ひとりが力を発揮できる風土をつくる
「自立・自律・自覚」をどうやって社員に浸透させるか
- 近藤さん
- 2019年当時、当社では主力製品の国内販売ライセンスの返還などの要因によって、事業全体のおよそ三分の一を失うという大幅な収益減に直面しました。そして、こうした事態 に対応するために希望退職の募集や、組織の一部を廃止するといった事業構造改革を行いました。構造改革後の少ない人員で事業を継続・発展させていくためには、一人ひとりのパフォーマンスを上げる必要があります。個人のパフォーマンス向上が、会社全体のパフォーマンスと成果につながっていくと想定のもと、社員が力を発揮できる環境づくり、風土づくりをスタートさせました。
- 有川さん
- 事業規模や組織・人員はサイズダウンすることになりますが、小規模でありながらも存在感のある企業を目指すために、企業風土も含めて変えていくことにしたのです。それにともない、社員に求めることとして「自立・自律・自覚」というコンセプトを掲げたのですが、これを具体的にどうやって浸透させていくかイメージがつかめない状況にありました。そのため、コンサルの力をお借りしようとソフィアさん含め他何社かに声をかけ、提案いただきました。
コンセプトは「Do it Ourselves」 熱意や柔軟さも評価してソフィアを選定
- 有川さん
- 各社から提案いただいた中で、内容として一番響いたものがソフィアさんでした。その熱意や、臨機応変に対応していただけるという点、「風土改革にはインターナルコミュニケーションが重要だ」といったプレゼン内容にも強く共感し、ソフィアさんにお願いすることに決めました。
- 近藤さん
- 私はかつて何度かソフィアさんと仕事をしたことがあり、クライアントファーストな姿勢や、細かく面倒くさいこともさほど嫌な顔せずやってくださる点、熱意などを高く評価していました。有川と相談してソフィアさんを推薦したところ、コンペでの企画やプレゼンもすごく良かった。当時のメンバーもみんな口をそろえて「ソフィアですね」と言っていました。
- 近田
- 提案するにあたっては、「組織風土を変える」「新しい組織構造を支える」という2つの課題があったため、理屈とストーリーをどう組み立てるか悩みました。そこで導き出したコンセプトが「Do it Ourselves」。社員が問題を受け止め、変革を自ら実行・経験することで意識が変わり、風土も変わること、これがすなわち「自立・自律・自覚」につながると考えました。
会社に残る人と早期退職を選ぶ人が社内に混在している時期だったため、社内に対して今後の話をするにも何かと配慮が必要です。プロジェクトの最初が肝心だと考え、社員の皆さんに対する丁寧なコミュニケーションを心掛け、計画的に、かつその場その場の状況に対応しながら進めました。途中からは業績の回復も追い風になり、企業全体が変わっていこうという流れになっていきましたが、最初のころはかなり混沌としていましたね。
大荒れの議論が社員の気付きにつながった
社員の率直な言葉を引き出し、経営がありのままの現実を受け止める
- 森口
- 新たな風土を醸成するにあたって、事務局で課題をまとめたり、社員が大切にする価値観「TORII’s POLICY」を策定したりと、浸透に向けてさまざまな施策を行ってきました。プロジェクトのスタート時に組織の現状について全社アンケートを実施したのですが「こんな普通のWebアンケートで社員の人たちの本音や想いを引き出すことは難しいのではないか。回収率が下がったとしても、社員がもっと気持ちをぶつけられる機会が必要ではないか」と考え、あえて紙のアンケートを配布して回答を手書きしてもらうことにしました。回収してみたら、これまで見たことないくらい辛辣なことが書かれていましたね。最終的には全ての回答内容の原文をそのまま役員の方にご覧いただいたのですが、「どんなに辛辣な内容でも丸めて伝えてはいけない。経営層にもすべて理解してもらわなければ」というプロジェクト事務局の皆さんの想いが、私にとっては衝撃的でした。通常ならエグゼクティブサマリーという形でまとめてしまうところを、経営陣全員がすべての回答に目を通したというのはすごいことだと思います。
- 三好さん
- 2019年の11月から、価値観策定のための合宿を葉山と東京で計3回にわたって行いました。最初の葉山合宿は、入念な準備をして臨んだにもかかわらず、初日からプログラム通りにいきませんでしたね。各部門、支社、営業拠点の代表者1名ずつ、年代も20代から40代までバラバラな18名のメンバーが参加していたのですが、お互い初対面で部門名から仕事内容まで知らない者同士が集まっていたため、最初の自己紹介から大幅に予定時間をオーバー。そのままプログラムを進めてディスカッションに移りましたが、事業構造改革に対する思いは参加者それぞれに異なり、また、「自分たちが会社を変えてやる」という思いも強いため、各自言いたいことがありすぎて言いたい放題という状況でした。運営側で「このままではまずい」という話になり、森口さんが翌日のプログラムをその場で組み替え、臨機応変に対応してくださいました。何か月も前に予定を立てていた取り組みを、その日に変えて明日行うというのは私にとって初めての経験で、当社ではこれまでにない取り組みだったのでとても印象的でした。
- 森口
- 初日の飲み会も議論が白熱して大荒れでしたね。会社のことであそこまで個々が熱くなって場が荒れることって、普通はなかなかないですよ。みんな上手に空気読んだりしますから。結果としては、それぞれが言いたい放題言って場を荒らして、荒れ続けた結果、どんどん面白いワークになっていきました。
「私たちは何かを変えようとしてきたのか?」「自分もこの状況を作った犯人じゃないか」
- 近藤さん
- 初日に横で社員の議論を聞いていたときは、管理職が悪い、会社が悪い、あの人のせいでといったような、他責の発言が多かったので心配になりました。しかしその後森口さんが「ちょっとあれはよくないんじゃないか」と指摘してくれて、そこからプログラムを変えファシリテーションのやり方も工夫してくださったところ、次第に「自分たちにもできることがあったのではないか」と前向きな雰囲気になり、議論の質が変わっていきましたね。
- 森口
- 「会社の問題はよくわかりました。で、この問題を感じながら、私たちは何かを変えようとしてきたのでしょうか」という問いを投げ、ワークをしました。そのとき参加者の一人から「自分もこれまで人のせいにするだけだった。自分もこの状況を引き起こしていた犯人だ」という発言が出たことが皮切りだったんですよね。一人の言葉が全体に伝播して、一瞬で空気が変わりました。
皆で作ったポリシーを拠り所に、辛辣な意見も推進力に変えていく
事務局メンバーが社員の言葉に耳を傾け、整理して全体に共有する
- 近田
- 参加者が言いたい放題言って荒れた結果、他責から自責に変わったり、自分ごととして考えるようになったんですよね。忌憚のない発言ができる人は、もともと勇気があり、「ここまで言っても大丈夫」と本人が考えている範囲も広いのではないでしょうか。とはいえ、そのような人が言いたい放題言って運営側が針のむしろになったとしても決定的に場が崩壊することはない、というのは事務局の力でもありますよね。
- 森口
- いまは企業風土改革ワーキンググループと称して、部門別のワーキンググループを11個、それ以外に課題別のワーキンググループを3個運営しています。それを仕切っている三好さんは、ディスカッションなどの場でどんな辛辣な意見が出ても、相手が話し終わるまでじっと耐え、そして一拍おいてから、事務局側の考えをちゃんと伝えていますね。今の取り組みが進んでいる背景には、事務局側のそんな姿勢も大きな役割を果たしているのではないでしょうか。
- 三好さん
- ワーキンググループでは常に我慢大会みたいな場面が出てきます。客観的にみると言葉の矢が私に刺さっているらしいのですが、そんなときは幽体離脱して痛みを感じないようにしています(笑)。それは冗談として、私自身、話を聞く姿勢はあるのですが、議論が白熱すると時々誰が何を言っているのか発言の趣旨を理解できなくなる時もあるんですよね。そんなときにはよく、ファシリテーターの宇佐美さんがみんなに分かるような言葉に言い換えてくださるので、とても助けられています。
- 宇佐美
- 一般社員の方が経営に対しての意見や強い思いを持ち、さらにその思いをワーキンググループのような場で発言するってすごいことですよね。そのようなプレッシャーやストレスがかかる中で出てくる発言は、何かしら意味があると思って聞いています。ただ、どうしても発言の解釈には個人のバイアスがかかってしまうので、「それはどういうことですか」と尋ねて具体的にしたうえで整理しています。それが発言しやすい場づくりや、発言したことはみんなで進めていこうとする姿勢につながったのかもしれませんね。
原点となる「TORII’s POLICY」を実践し、企業理念の実現を目指す
- 有川さん
- 全社員を対象としたTORII’s POLICY共有ワークショップの実施等をはじめ、これまで様々な取り組みを進めてきて、徐々に社内に「TORII’s POLICY」が浸透してきていることを感じています。TORII’s POLICYは私たちが変革を進めていくうえでアンカー(錨)の役割を果たしています。ワーキンググループで出てくる課題や問題点はさまざまですし、風土改革活動の取組方法・内容等に対して辛辣なご意見をいただくこともありますが、すべての施策のベースとなっているTORII’s POLICYそのものに対する否定的な意見はありません。TORII’s POLICY自体はみんながすごくいいものだと思ってくれているので、それを社内に浸透させるために、こうした方がいいああした方がいいと真剣に考えて意見を出してくれているのです。前向きな批判等はしっかりと受け止めて、一層の浸透に努めていきたいですね。
- 近藤さん
- 社員で大切にしたい価値観としてTORII’s POLICYを策定すると同時に、経営陣で膝突き合わせた議論を行って、「鳥居薬品の志」という企業理念も策定しました。TORII’s POLICYは私たちの原点であり最後には一番力になるものです。現状、何か問題があったときにはTORII’s POLICYに立ち戻り、状況をよくするためにTORII’s POLICYをみんなで実践して企業理念の実現を目指そうとしているので、すでに浸透してきている感覚はあります。
ただ、TORII’s POLICYは患者様のためのものであって会社のためのものではありません。使い方を間違えると、新しいことにトライする、人を大切にするといった、本来は手段であるはずのものが目的にすり替わってしまいます。そこをはき違えないように気を付けながら、理念に基づいて地道に取り組みを継続させていこうと思います。
社内にはないアイデアや知恵を出してくれる存在
ソフィアは同じチームの一員であり、社内にはない知恵やアイデアを提供してくれる存在
- 近藤さん
- これまでと同様の支援をいただければそれで満足です。このような取り組みには正解がありません。ソフィアさんが他社と取り組んだことや、持っている問題意識の中で、役立つような知見やアイデアを共有していただけたらありがたいです。
- 有川さん
- 企業理念である「鳥居薬品の志」には「患者さんとそのご家族の豊かで笑顔多い人生に貢献する」とありますが、その実現のためには、まずは私たち社員とその家族が豊かで笑顔多い人生であることが大事と考えています。これをどう実現していくべきかに向けて、ソフィアさんのご経験からインプットやアドバイスをいただきたいです。
- 萩原さん
- たぶんソフィアさんはお願いしたらなんでもやってくれちゃうと思うので、あまり頼りすぎないように、基本的には僕らが主となってやっていくようにしようと思っています。その中で、知恵や助け舟を出していただいたり、いろんなアイデアや困ったときのアクション、私たちの至らない部分に対するアドバイスなどを引き続きいただけると、非常にありがたいですね。
- 三好さん
- 一緒に三年ほどお仕事させていただいていますが、外部コンサルタントではなく同じチームでやっているような感覚があります。感情の共有も自然にできて、社内の他部署の方には言わないようなことまで言っているかもしれません。楽しく遊ぶように仕事をさせてもらっていて、そういった部分もありがたいなと思っています。
(文:依田美里 編集:瀬尾真理子 写真:宮坂恵津子)