INTERVIEW

お客様インタビュー

お客様インタビューvol.27
「文部科学省伴走事業 対談記事② ~変革に対する主体性の高め方~」

福井大学
中森 一郎 教授(写真右)
​Inquiry合同会社 founder,CEO
山本 一輝 さん(写真左)
株式会社ソフィア・株式会社ソフィアクロスリンク
廣田 拓也(写真中央)

インタビュー実施日:2024年5月27日

ソフィアは2020年よりソフィアクロスリンクという子会社を設立しました。
「地域の人と組織を元気にします」をミッションに掲げ、企業と行政、企業と学校、企業同士が繋がり、相互に越境し合うことで新しい価値を生み出す支援を行っています。

2021年より文部科学省が推進する次世代人材育成事業「マイスター・ハイスクール(次世代地域産業人材育成刷新事業)」に対する伴走支援を行ってきました。

1話目では、文科省が次世代人材育成を推進する背景、変革を起こすための伴走支援体制、やらされではなく高い当事者性を持つには、というお話をお伺いしました。今回は『変革に対する主体性の高め方』を中心にお話をお伺いします。

地域への貢献を実感することで、生徒の主体性が高まる

近田

事業に目を向けてもらうために、専門高校の生徒たちに対してどのようなアプローチをしたのでしょうか。

中森

専門高校に行ったからといって、うまく職業教育に馴染むとは限りません。何かをつくって達成感を得て、何かを成し遂げて周りから評価してもらう経験を積むことで「自分はこれができる、これが好きで認めてもらえる」という想いを一つずつ積み重ねていくっていうことが一番大事。それしかないと感じています。

近田

生徒たちは具体的にどんな取り組みをしているのでしょうか。

中森

たとえば、水産なら実際に海に出て、魚を観察したりマイクロプラスチックの探究をしたり、農業なら草花を育てたり、工業なら旋盤や機械を使ってものづくりを進める。実学的な学習をして技術を身につけていきます。
職業系は伝統的な職人の世界なので「技術をしっかり伝授していきたい」という想いで教えている先生が多いのです。

山本

『わかる、できる、役に立つ』というステップがあります。
専門高校の生徒たちは、まず「わからないものが理解できる」ようになり、先生に技術を教えてもらうことで「技術が身につき活用できる」ようになる。その結果「課題研究や企業・地域との連携の中で、自分たちが学んできたものが役に立つ」。その経験が自分の進路やキャリアを探すきっかけになる。これが3年間で子供たちが学んでいくことだと感じました。

廣田
やはり自分の学びがどれだけ地域企業や社会で役立つかは、実際に社会に出て企業の人たちと一緒に何かやらない限り、実感できないと思うんですよね。
中森

マイスター・ハイスクールの枠組みに限らず、企業とコラボして、地域の特産品を使った新たな商品を開発している学校もあります。
企業や地元の人たちも、高校生ならではの新鮮な感覚から生まれる商品づくりに期待しているようです。若狭高校でも企業が支援をしているようで、企業の人が高校生からアイデアをもらったり、一緒にコラボしながら新たなものを創り出す発想に変わってきています。

近田

3ステップ最後「役に立つ」は、マイスター・ハイスクール事業で産業界からCEOが入ることによって、具体的に成果を上げたり、顧客から評価をもらう機会が増えたということですね。

山本

質量ともに上がった感じはしますね。今までは特定対象だったものが、もっと広域に広まるといったより高次なものになりました。

異分野の融合と伴走者による媒介

山本

私が支援していた坂井高校は、当初4学科8コースで複数の専門高校が合併して生まれた学校でした。ガバナンスや一体感が出にくい背景があったことから、マイスター・ハイスクール事業をきっかけに8コースが連携し、より質の高い実践を生み出していこうという趣旨でした。
3年間でいくつかの実践が生まれた中で、お菓子づくりの例がありました。地元のお菓子屋さんからお菓子に付ける焼き印を作りたい、と相談があり、工業コースの生徒が焼きゴテを作りました。また作った商品をお土産として売るために、商業コースがデザインして、マーケティング観点でより価値を高めて発信まで行いました。
コースを横断して企業の課題解決を行ったことを受けてコンソーシアムが立ち上がり、坂井市、あわら市、商工会議所、金融機関企業30社ほどが、坂井高校のこういった学びを支援していこうという協働体制が生まれました。今回採択された学校の中でも際立った成果の1つとして認められています。

近田

工業のものづくりと、商業のマーケティング知識や観点が融合したことで、別の価値が生まれたんですね。

山本

そうですね。今まで個別でやっていたものが一体化したというのも1つの成果です。

近田

一体化するのは労力がかかると思いますが、どんな工夫があったのでしょうか?
伴走者やCEOはどういう立ち位置だったのでしょうか。

山本

坂井高校のケースは少し特殊で、8コースある学校なので先生も生徒数もすごく多いんですよ。 CEOは2人配置され、産業側のコーディネートは企業から派遣された方、プロデューサーという立場で普通科高校を定年退職されたベテランの先生に入っていただきました。

産業側と学校側をつなぐ2人が、8コース全ての先生と「こういう生徒を育てていこう」「こういう学びが必要だ」ということを喧々諤々語りました。
「自分たちの成果を自分たちで閉ざすのではなく、お互いに見合う機会を作ろう」ということで、それまでコースごとだった成果発表会を合同で行い、お互いを知る機会を創出しました。また機械科の先生が商業科のコースで授業を行うなど、コース間の交流が起こりやすい環境を3年かけて創っていきました。

近田

前回お聞きした若狭高校と小浜水産高校の統廃合、坂井高校の8コースの融合のように、何かしらの統合がきっかけになって新たな価値が生まれたんですね。

山本

その媒介となって促進することが、僕ら伴走者の役割だったと思います。

廣田

伴走者はさまざまな分野の知見を持ったアドバイザーを懐刀のように持ってもらって、そこから必要な情報を得たり、学校現場で情報提供してもらいましたね。中森先生には学校現場も管理機関のこともわかるアドバイザーとして就任してもらって、生徒の主体性や自己肯定感を高めてもらうプロフェッショナルとしてご活躍いただきました。

 参考: 

【マイスター・ハイスクール】8コースが連携、生徒を「迷わせる」改革とは?
【マイスター・ハイスクール応援チャンネル】福井県立坂井高校 PR動画

専門高校も「開かれた学校」を目指して

中森

文科省の話に戻りますが、文科省は「社会に開かれた教育課程」を掲げ、開かれた学校を作る教育を進めています。
これまで学校教育は学校の中に閉じていましたが、地域の人や生徒自身も主体的に関わって、みんなで教育を考えていこうというのが、今の日本における教育の方向性なんです。

しかしここでネックになるのが、これまで教師が中心となって生徒を指導してきたため、生徒は常に受け身で学ばざるを得なかった点なんです。1面的なペーパーテストで点数を取れる子が優秀とされて、点数を取れない子はそうではないという位置づけになってしまう。
これからは、生徒一人ひとりが主体となって可能性や個性を引き出すような学校づくりをしていくのが主流となります。職業系高校は先生が絶対という徒弟制度のようなところがあるから、今の日本の教育が向かっている方向と真逆なんですね。この事業が目指したのはそれを破壊することかと感じています。

山本

境界を溶かしていく感じですよね。

中森

そうですね。先ほどの坂井高校の話だと、以前は農業・商業・工業・家庭の4学科に横のつながりがなく独立した状態でした。この事業には外部の力を借りながら、学校内で独立してしまったものを統合させていく狙いもありました。
私のアドバイザーとしての仕事の一つは、いかに職業系高校が縦割りの構造になっているかをみなさんに自覚してもらうということです。外部の人が入ることで、教師は変容を余儀なくされるし、生徒も直接社会と関わることで変わっていきました。

対話を重ねたことで、教員が自分ごと化する

近田

教員の変容とか生徒の自己肯定感が高まるといった変化が起きたわけですね。行動や心理的変化に対する一番のきっかけはなんでしょうか。全体の変容の因果関係をどうお考えですか?

中森

「企業のトップがやっていることを社員は知らない」という話を廣田さんからお聞きしました。
学校でも同じことが起きていて、校長とCEOと担当がやっていることを他の教員がほとんど知らない。相互に知り合う努力をしたことはないと思います。
廣田さんには、ソフィアが会社を改革していくときに進める手立てを学校に持ち込んできてもらいました。

廣田

研修やワークショップ、イベントに加え、業務の中にエッセンスを織り込んだりするやり方は、ソフィアが普段お客様に提供していることとほどんど一緒ですね。

近田

そういう伴走者の存在は好意的に捉えられる反面、抵抗もあったのではないでしょうか。

中森

それで言うと、教員も生徒も「事業を自分ごと化できるかどうか」が1番大きいですね。
自分ごとするには、その前に自分のことをちゃんと認めてもらってることが大事です。

教員同士においてもお互いをちゃんと認め合う関係性の構築が重要でした。まずは教員間の良好な関係性をつくることが、学校がよくなるための絶対条件です。
文科省や県から決まった授業をやるよう指示をだせば、みんな反発することはないけど前向きには取り組まない。そのためCEOは、先生方一人ひとりと丁寧に対話したと聞きました。それぞれの想いややりたいことを丁寧に聞いて支援していく。そうすることで先生たちが事業にも関心を持ってくれるようになった。

山本

これまで学校を変革しようという人たちでも、対話の時間を作ることに投資してこなかったんですよね。

自走する組織とは、学び合える組織

近田

対話を経て、事業に対して納得感を得た教員は自走できるのでしょうか?

中森

それがなかなか難しいです。自走する組織は結局「学び合える組織」だと思います。常に自分たちの持っている課題感を共有し合い、よりよくしていくために学び合えるような組織になれるかどうか。自走は単にお金の問題だけじゃなくて、その組織づくりをどう進めていくかが、次のマイスター・ハイスクール事業の大きな課題になってきます。

近田

学び合う組織というのは、先ほどのように学校だけではなくもう少し広い範囲でしょうか。

中森

はい。それも教員に限るものではなく、生徒や地域社会も関わらないといけないと感じています。

山本

協働体制として広げるという意味で、広義なイメージのチームですよね。

中森

そういうコミュニティをいかに作っていくかが、次の伴走の目玉かなって思います。

山本

そうですね。この3年間で協働体制の仕組みや仕掛けは構築できたと感じています。ただそれが継続して機能しているかどうかはまた別の話です。
協働体制ができても関係者の異動もあるので「継承と発展をどうするか」という問題が次のテーマですね。

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