5月23日、私(池田勝彦)が理事を務めているIABCジャパンの情報交換会がソフィアの会議室にて開かれました。テーマは毎回、IABCのウェブマガジン『CW』の特集トピックに合わせており、今回のテーマは「クリエイティビティとイノベーション」。まず導入部分で特集記事を和訳して紹介しましたが、イノベーションを生み出すために特に今注目されているのが、デザインシンキングです。そこでSAPジャパン株式会社の原弘美氏をお招きして、「SAPのデザインシンキング活用について―社内変革と顧客への付加価値提供」と題してお話しいただきました。会場は15名ほどでほぼ満席。参加者の興味のほどがうかがわれました。
なぜそんなにデザインシンキングが注目されているのか。特集記事で紹介されたデータがあります。2014年のDesign Management Instituteの調査によれば、アップルやコカコーラ、IBM、ナイキ、P&Gなどデザイン主導の企業は、過去10年にわたって219%という、S&P500社平均を倍以上しのぐ実績を上げています。また、マッキンゼー、デロイト、IBM、フェイスブック、そしてキャピタルワンといった企業が最近相次いでデザイン会社を買収している理由もここにあると言われています。
デザインシンキングとは、デザイン思考で顧客のために複雑な問題を解き明かし、価値ある解決策を見つけるために活用する方法論です。従来のエンジニアリング主導からデザイン主導へ、製品中心から顧客中心へ、マーケティング中心からユーザー・エクスペリエンス中心へとシフトする考え方です。
SAP は、P&G、GE、IBM、ペプシといった企業とともに、イノベーションを生み出す方法を再発見すべく、企業をあげてデザインシンキングを取り入れていると紹介されています。SAPジャパン株式会社の原弘美氏によれば、SAPは2004年からデザインシンキングに取り組んでおり、まずヒトにとって望ましい状態を描き、技術的実現性と経済的実現性を満たすところにイノベーションが生まれると言います。
デザインシンキングのプロセスは次のようになります。まず課題の「スコープ」からスタートし、「360°リサーチ」で徹底的に観察します。人は考えていること、感じていることと、実際に見ていること、聞いていること、言っていることと行っていることとは一致しないことがよくあるものです。得られた知見を「統合」し、顕在化していない顧客のニーズを理解して、新しい着眼点から課題を捉え直すことで洞察を得ます。望ましい状態という観点から解決に向けた「アイデア」をなるべく多く出し合います。キーとなるのは『共感』です。共感に基づいてアイデアの有用性を検証するのです。そこで「プロトタイプ」を作り、テストして、失敗を許し、顧客からのフィードバックを得て改良を続けるのです。こうして「Validate実証」されたものが『共感』を軸にしたイノベーションになりうるということです。
SAPは、農場経営の変革や電力会社のビジネス変革など数多くの事例を”Design Thinking with SAP”と名付けたシリーズでYouTubeに動画を公開しています。
私たちソフィアはSAPのような膨大なデータを持ち合わせていませんが、デザインシンキングの考え方は、実はそのように名前がついていない頃から、Customer Experience Designとして取り入れてきたプロセスそのものだということが分かりました。そしてデザインシンキングは、何もデザイナーでなくてもできることを再確認させてもらいました。
共感を呼ぶ人間中心のイノベーションは、それほど遠くのものではないのでしょう。きっと私たちの手の届くすぐそこにあるのかもしれません。大いに勇気づけられた情報交換会でした。なおIABCジャパンの情報交換会は、会員以外の方も歓迎しています。毎月開催していますので興味のある方はいつでもご参加ください。来月6月にはIABCの世界大会がニューオリーンズで開かれますので、ビジネスコミュニケーションの最新動向を7月の情報交換会でご報告します。お楽しみに。